介護の現場では、ご利用者からの「ありがとう」が聞けない日もあります。
笑顔もなく、うなずきもわずか。
そんな無表情な反応に、心がざわつくことはありませんか。

「届いていないのかな」
「わたしの支援、間違っていたのかもしれない」
思いがけず揺れてしまうその気持ち――
それは、介護職として丁寧に向き合っている証です。
本記事では、
言葉や表情に頼らず、ご利用者との関係性を育てていく視点や、
“ありがとう”が聞こえない日でも、自分のケアを信じるためのヒントをまとめました。
どうか、自分を責めすぎずに。
届いている支援は、きっとたくさんあるはずです。
“ありがとう”がない日もある
介護の現場では、ご利用者からの「ありがとう」が聞けない日もあります。
新人さんも、中堅の職員さんも、一度は経験することではないでしょうか。
こちらが笑顔で声をかけても、
返ってくるのは無表情な視線や、小さなうなずきだけ。
そんなとき、ふと――



「わたしの支援、意味があったのかな…」
と、自分の価値を測ってしまうことも。
でも、言葉がなくても、
感謝の気持ちや支援の成果は、ちゃんと届いていることがあります。
人の心と、言葉は、必ずしも一致しません。
特に、認知症のご利用者や、
言葉で気持ちを表現するのが苦手な方にとっては、
「ありがとう」を伝えること自体が難しいのです。
だからこそ、介護職は、
“目に見えないありがとう”を感じ取る力が必要になります。
- 気持ちはあるけど、うまく言葉にできない
- 表情の変化が小さく、反応が伝わりにくい
- その日の体調や気分に左右されやすい
- 支援が“当たり前”になり、感謝が日常に溶け込んでいる
声が聞こえなかった日も、
支援の積み重ねは、ちゃんと相手の暮らしを支えています。
あなたが気づいた“小さな変化”のひとつひとつが、
見えないけれど、確かな“ありがとう”なのかもしれません。
無表情なご利用者の反応に、戸惑ってしまうとき
笑顔で声をかけたのに、返ってくるのは無表情なまなざし。
短くうなずくだけで、会話も広がらない。
そんな場面に、心がふっと沈んでしまうことはありませんか。



「何か間違えたかな…」
「ちゃんと届いていないのかな…」
戸惑いは、介護職なら誰もが感じたことのある感情です。
自己肯定感が下がってしまい、仕事へのモチベーションが揺れることもあるでしょう。
でも――表情がないからといって、
心が閉ざされているとは限らないのです。
むしろその無表情こそが、
「ここでは無理に頑張らなくていい」という安心感の表れであることもあります。
- 無表情=不満ではない
思考や感覚に集中しているときは、自然と反応が少なくなる - わずかな変化に注目する
まばたきのタイミング、指先の動き、姿勢の変化などがヒントになる - 声のトーンや動作に注目する
話しかけたときの返事のリズムや、手の動きの柔らかさも感情の一部 - 過去の性格や好みを思い出してみる
元々表情が控えめな方もいれば、照れ屋で反応が淡い方もいる
表情に頼らず、
ご本人らしさや小さなサインに目を向けてみると、
戸惑いはいつの間にか“気づこうとする好奇心”に変わっていきます。
ケアの本質は、表情の奥にある想いに気づこうとする姿勢――
そこにきっと、信頼関係の芽が育っていくのだと思います。
伝わらないもどかしさに、心が揺れるとき
せっかく心を込めたケアが、相手に届いていないように感じたとき――
胸の奥に、ポツンと穴が開いたような気持ちになることはありませんか。



「こんなに頑張っているのに…」
「なんで何も返ってこないんだろう」
伝わらないもどかしさは、
悔しさや無力感、そして時には自己否定のスパイラルを引き寄せてしまうこともあります。
でも、その“もどかしさ”は、
実は大きな成長の入り口でもあるのです。
言葉や表情に現れないからこそ、
私たちは“他の感覚”を使って感じ取る力を養っていくことができます。
- 「今の思い」を記録に残し、少しだけ客観視してみる
「届かないかも…」と思った瞬間も、書き出すことで冷静になれる - 支援の“前後”で変化を比べてみる
表情・声のトーン・姿勢・体調など、小さな変化に注目 - 同僚や先輩に相談し、視点を増やす
「それ、実は安心してるサインかもよ」と言ってもらえるだけで気づきが生まれる - ご利用者の視点で想像してみる
「言葉じゃなくて、どんな方法で伝えようとしているんだろう?」と考えてみる
こうした取り組みを少しずつ積み重ねることで、
“ありがとう”の言葉がなくても、届いている支援に気づけるセンサーが育っていきます。
その感性は、あなたのケアをより深く、しなやかに支えてくれるはずです。
一喜一憂しすぎない距離感とは
介護職は「感情労働」とも呼ばれます。
ご利用者との心のやりとりに寄り添い続ける中で、
感謝の言葉や反応に一喜一憂してしまうのは、ごく自然なことです。
でも――その波に毎回大きく揺さぶられていると、
知らず知らずのうちに、心も身体も疲れてしまいます。
だからこそ大切なのが、
ご利用者との間に“健やかな距離感”を持つこと。
距離を取りすぎるのではなく、
心は開きつつも、プロとして冷静さを保てるバランスを育てていくことがポイントです。
- まずは自分自身を客観視すること
外からの評価に振り回されず、自分の内側に「よくやったね」と声をかける - 日々の小さな達成感を記録する
「今日は〇〇ができた」と気づきを書き留めて、自己肯定感につなげる - 同僚と感情を共有し合う
「こんな時どうしてる?」と話せるだけで、気持ちがふっと軽くなる - 相談窓口やメンタルサポートを遠慮なく活用する
誰かに頼ることは、弱さではなく“持続する力”です - オフの時間はしっかり休む・楽しむ
趣味・運動・自然との時間で、自分のエネルギーを補給しましょう
感情が動くからこそ、この仕事は“人と向き合う”仕事なのだと思います。
でも、すべてを抱え込まなくても大丈夫。
あなた自身のケアも、支援の一部です。
距離感は、自分を守りながら、関わり続けるための大切な技術です。
自分のケアを、否定しない考え方
ご利用者へのケアに、毎日全力を注いでいる介護職の皆さん。
その一方で、自分自身のケアは、
いつも後回しになってしまいがちではありませんか?
でも――
「自分を大切にすること」は、決して甘えではありません。
むしろ、燃え尽き症候群を防ぎ、
この仕事を**長く、無理なく続けていくために必要な“技術”**です。
まずは、自分の中にある“ちいさな頑張り”を、
ちゃんと認めてあげるところから始めましょう。



「今日は笑顔で挨拶できた」
「お話にしっかり耳を傾けられた」
それだけでも、立派な“ケア”です。
- 日記やアプリで一日の振り返りを
「よかったことを3つ」書き出すだけでも、心が整っていく - 上司や同僚に「ありがとう」を伝え合う時間をつくる
感謝を言葉にすることは、相手だけでなく自分も癒します - 定期的な休暇やプチ・リフレッシュを予定に組み込む
“ちゃんと休む”も、大事な業務のひとつです - メンタルヘルス研修やワークショップを活用する
気持ちとの向き合い方を学ぶことで、自分のケアが上手になります
誰かの役に立つことと、自分をすり減らすことは違います。
自分を大切にできる人ほど、やさしさを“持続”させられる人です。
どうか、あなた自身の心と身体にも、
やさしいまなざしを向けてあげてくださいね。
評価より、“関係性”を育む視点
介護の現場では、業務の正確さやスピード、手順の確実さが評価されやすいものです。
もちろん、それも大切なプロのスキル。
けれど、それだけにとらわれすぎてしまうと――
目の前のご利用者が本当に求めている安心感や信頼には、
なかなかたどりつけないこともあります。
ケアにおいて、
“できたかどうか”よりも、“どんな関係を築けているか”という視点も、
同じくらい大切にしていきたいものです。
- お名前や好みを覚えて、さりげなく会話に取り入れる
- 「今日のお洋服、明るい色で素敵ですね」など、ちょっとした変化に気づく声かけを
- 定型業務の合間に、“雑談の余白”を1分だけでもつくってみる
- 趣味や過去のエピソードを覚えて、話のきっかけに使う
→「○○が好きって言ってましたよね」と言われるだけで、心の距離は縮まります
評価よりも、まず“つながり”を。
そのつながりこそが、ケアの安心感や継続性を支えるいちばん強い土台になります。
どうか、忙しい日々の中でも、
ちいさな会話やまなざしの交換を“価値あるケア”として大切にしてみてください。
感じ取る力を、育てていくということ
介護職に求められるのは、
身体的なサポートだけではありません。
言葉にはならない不安、
表情に出ない安心――
そうした“小さなサイン”を察する感性もまた、
質の高いケアを支える大切な力です。
でも、それは特別な才能ではありません。
感じ取る力は、日々の観察と振り返りで少しずつ育てていける“スキル”です。
たとえば、ご利用者と接した後に、



「いつもと違うところはなかったかな?」
「このしぐさには、何か意味があったのかも」
そんな小さな問いを、自分の中に持ってみることから始まります。
- 目線の動き・手のしぐさ・姿勢など、非言語的なサインを丁寧に観察する
- ケアの前後で、ご利用者の体調・表情・声のトーンをメモして比較する
- 気づいたことはチームで共有し合い、視点を広げる
- 気づきのパターンをノートに整理し、定期的に振り返る
このサイクルを少しずつ積み重ねていくと、
ご利用者の変化にも自然と敏感になり、
より早く、より的確に、安心感や信頼感を届けられるようになります。
あなたの「気づく力」が、
その方の心に寄り添う一歩になる――
そんなケアを、これからも育てていけますように。
言葉にされない感謝も、たしかにある
ご利用者から「ありがとう」の言葉が聞けなくても、
それは「感謝されていない」という意味ではありません。
実は、感謝の気持ちは、
言葉以外の形で、日々あちらこちらにあふれています。
たとえば――
ふと見せた、安心したようなまなざし。
そっと差し出された手。
ほんの少し、距離が近くなったと感じた瞬間。
そんな小さなサインたちが、
言葉にできなかった“ありがとう”の代わりになって、
静かに、でも確かに伝わってきます。
- いつもより穏やかな表情や自然な笑顔が増えたとき
- 距離がぐっと縮まるような、寄り添う姿勢や軽いボディタッチ
- ケアの後に、少しリラックスした声で会話がはじまるとき
- 退室時、ゆっくりと見送ってくれる小さな仕草や手の動き
こうした行動は、ご利用者が心から安心している証です。
言葉に頼らず、
目の前の“あたたかさ”を見つけられるようになると、
介護の時間はもっと、やさしくて深いものになります。
どうか、そのサインを、
「届いている証」として、そっと受け取ってくださいね。
見えないサインに、気づく心
表情や言葉だけでは伝わらないことが、介護の現場にはたくさんあります。
ご利用者の本音や気分の揺れは、
身振りや呼吸のリズム、わずかな身体の動きにそっと隠れていることも。
そうした“見えないサイン”に気づくためには、
五感をひらき、自分の感覚のアンテナを立てる習慣が大切です。



「今日、いつもと何か違うな」
その“なんとなく”の感覚を、ないがしろにしないこと。
それが、信頼に近づく第一歩になります。
- ご利用者が何を見つめているか
視線の向きや焦点の合い方に、気持ちのヒントがあるかも - 呼吸の深さやスピードに変化はないか
浅い・速い・不規則な呼吸は不安のサインかもしれません - 椅子にしっかり座れているか、姿勢は安定しているか
落ち着いているか、心が浮ついていないかを確認 - 手元や足元の動きに違和感はないか
緊張や痛みをこらえていないか、さりげなく注目してみる - 声のトーンや声量の急な変化に気づく
安心しているときの声は、自然と穏やかに - 体のこわばりを軽く触れて感じる
リラックスできているか、不安が残っていないかの確認に - 音楽や香りなど“好きな刺激”への反応を見る
ちょっとした反応が、気分の変化を教えてくれることも
こうした“非言語のサイン”を丁寧に受け取ることで、
言葉を超えたコミュニケーションが生まれていきます。
そしてそれは、ご利用者にとっての安心感や満足感を、
もっと深く、もっとやわらかく育んでいくはずです。
まとめ|言葉を超えたケアの本質
ご利用者の「ありがとう」に頼りすぎず、
その日その場に自分のケアが“ちゃんとあった”ことを信じるためには、
まずは自分のケアを否定しない心の姿勢が欠かせません。
感謝の言葉がなくても、
まなざしやしぐさ、呼吸や距離感といった“見えないサイン”に目を向けることで、
関係性はたしかに深まり、信頼も少しずつ育っていきます。
ケアの本質は、
言葉の数や評価の点数ではなく、
「その人に寄り添おうとした時間があったかどうか」――
そこにあるのかもしれません。
本記事を通じて、
感情に揺れすぎずに保つ“ちょうどいい距離感”や、
声にならない想いを受けとめる“感じ取る力”のヒントが、
あなたのなかに静かに灯っていたら、嬉しく思います。
どうか今日も、あなたのケアが届いていますように。
そして、あなた自身の心も、大切に守られていますように。
よくある質問(Q&A)
Q1:感謝の言葉がないと、つい自分のケアが間違っていた気がしてしまいます。
A1. それは自然な感情です。介護職は“人の役に立ちたい”という思いで支援にあたっているからこそ、反応がないと不安になりますよね。
でも、感謝は言葉だけとは限りません。穏やかなまなざし、ふっと近づいた距離感、小さなうなずき――“見えないありがとう”を感じ取る視点を少しずつ育てていきましょう。
Q2:無表情の利用者にどう接したらいいかわかりません…
A2. 無表情=拒絶ではありません。思考に集中していたり、安心しているからこそ表情に出ない場合もあります。
声のトーンや手の動き、呼吸のリズムなど、表情以外のサインにも目を向けてみましょう。ちょっとした観察が、関係づくりのヒントになります。
Q3:「ちゃんと届いているか分からない」と悩んだときはどうすれば?
A3. そう感じたときは、支援の前後で何が変わったかを振り返ってみましょう。体調、言葉、しぐさ――小さな変化も「届いていた」証拠かもしれません。
また、同僚や先輩に話してみると、思いがけない視点が得られることもあります。
Q4:感情に揺れすぎて、疲れてしまいます。どう乗り越えたらいいですか?
A4. 大切なのは、“自分と少し距離をとる時間”を持つこと。
日記やメモで「できたこと」を記録したり、オフの時間に好きなことを楽しんだり、気持ちを切り替える習慣を持つだけで、心の安定感が変わってきます。
Q5:自分を大切にするって、実際どうしたらいいんですか?
A5. 難しく考えなくて大丈夫です。
「今日も一日やりきった」「笑顔であいさつできた」など、小さな“自分へのありがとう”を日々見つけることから始めてみましょう。
それが、他人の評価に依存しない“心の安定”につながっていきます。
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このブログを書いている「まきこむ」と申します。
介護支援専門員(ケアマネジャー)として働きながら、趣味で創作活動も楽しんでいます。
介護にまつわる悩みや、日々の気づき、そして「やさしい未来を一緒に歩むためのヒント」を、このブログにそっと詰め込んでいます。
読んでくださった方の心が、少しでも軽くなるように。そんな思いを込めて、言葉を紡いでいます。
どうぞ、ゆっくりと遊びにきてくださいね。


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